北アルプスを望む長野市の山間地域「七二会」にアダムスミス陶芸工房はあります。
陶芸作家アダム・スミスさんは築100年の土蔵に工房とギャラリーを持ち、日々制作・創作に没頭しています。
そして奥様の陽子さんとカフェ、ミニ牧場も運営、築120年の古民家を修繕し、「丁寧な暮らし」をテーマに、森の古民家リトリート「あだむさんち」を運営なさっています。
母国イギリスと日本で和と洋の陶芸を学んだアダムさんが、理想的な制作環境を求めたどりついたのが長野市七二会(なにあい)。そこで生み出される器はどれもステキなものばかり。
アダムさんの器でいただく地元食材を使った美味しいランチでおもてなしを受けながら、
アダムさん、陽子さんに色々とお話を伺ってきました。
※リトリートとは:日常から離れた場所や時間。そこに身を置くことで、大切なことを思い出したり、気付くことも多いと言われる。
― 杜龍焼工房の器が生まれるまで
アダムさんはイギリスで陶芸と出会い、語学留学で渡英していた陽子さんと知り合い結婚し日本へ。
愛知県で日本の陶芸を4年半学び、陶芸に集中できる環境を求め移住地を1年間探し回りました。
そして七二会の古民家を見つける事になります。
アダムさんは移住先の条件として、
・気持ちよくろくろが回せる
・窯を置ける(最適な場所は中々ないそうです)
・山の景色がキレイに見える
・野菜を育てられる畑がある
・自分の手で修繕できる古民家
を絶対条件としたそうですが、七二会の古民家はすべてを満たし、やりたい事ができる理想の地、だったそうです。
工房を開いてしばらくたった頃、アダムさんが龍の置物を作ったところ、地元の方がそれを見て
自然豊かな七二会地区それ自体を表し、繁栄も意味する「杜」という字を使い、 杜龍焼(とりゅうやき)という名前を付けてくれたそうです。
アダムさんは移住当初は日本語があまり上手ではなかったそうですが(今はとてもお上手ですよ)、地元の方々もあたたかく迎えてくださった事が分かりますね。
こうして杜龍焼工房が生まれました。
― 杜龍焼工房の器の特徴は?
釉薬(うわぐすり)は地元七二会のイチジク、リンゴの木や竹を焼いた灰から作っています。
釉薬に七二会の土を混ぜる事もしているそうです。
イギリスの器はこだわりが少なく、機能性が重視される事が多いそうですが、
杜龍焼工房の器の口にあたる部分のなめらかさ、指にしっくりくる取っ手、深い自然から生まれる色合い、どれを取っても、日本の文化・日本の陶芸の繊細さを新鮮な目で吸収したアダムさんが作る器であればこそ。
師匠から弟子へ受け継ぐ、という形とは違う和洋折衷のアダムさんオリジナルの作品なのです。
アダムさんはそばが大好き。
自分で作ったそばちょこでそばを食べたい。そんな自然な流れから生まれたもの。
そばちょこ以外にもお茶を飲む為に使ったり、デザート用に使ったりすると、もてなした気分になれる、とはお客様からの声だそう
存在感があるのにお料理の邪魔はしない
特別感の出るお皿。
料理のイメージが変わります。
用途は色々、和洋問わず使え、高台が無い為場所をとらないという機能性もあります。
最初は薪ストーブでパンを作りたかった
アダムさんが、試行錯誤を重ねて改良して
できたもの。ガス台でも使えます。
野菜やチキンにオリーブオイルと塩を少々。水もいりません。弱火で30分で出来上がり。
本当に楽、すごく美味しいとアダムさん
― アダムさんの器でいただく絶品ランチ
取材の日のランチはアダムさんの器でいただきました。
カフェを始めたのは2年前、当初からイングランドの家庭料理を提供しているそうです。
パンに使う小麦粉、コテージパイのじゃがいも他たくさんのお野菜、スープのさつまいも、地元七二会産のものをできる限り使う事を大事にしているそう。
この日のメニューだけでもお野菜は9種類!心のこもった優しいお味でした。
写真からも分かりますが、アダムさんの器はお料理を引き立ててくれますね。
― 陽子さんから見たアダムさんとアダム作品とは?
アダムさんはブレなくて、良くも悪くも頑固ですね。
時間に追われ、義務感で作品を作る、という事はアダムさんはしないです。
と陽子さんは言います。
愛知県にいた頃、マンションのベランダに念願の
自分専用の電動ろくろを置きました。
最初は喜んでいたアダムさんでしたが、
しばらくしてあまりろくろを回さなくなりました。
2人でゆっくりと話をして、少しずつ移住を真剣に考えるようになりました。
七二会に来て、アダムさんが土蔵を自分で直し、
ろくろを楽しそうに回し、嬉しそうに話し、毎日生活する姿を見て、
陽子さんも自分の置かれている状況の素晴らしさに気付いたそう。
自然に囲まれ、景色を楽しみ、大好きな陶芸ができ、
自分で作った器と野菜で食事をする。
七二会にはそんな理想の生活のすべてがあったのだそうです。
理想の環境の元で作られた作品たちの持つ魅力は、
すべてアダムさんの心の安定があったからなのですね。
陶芸作家アダム・スミスは今いるべき場所にいる、そしてそこへ連れてくる事ができた(それが役割だった)、
という思いが陽子さんの中にはあるそうです。
アダムさんの作品は「気持ちが落ち着く」作品です。
ネット通販では実際に器に触れていただく事はできませんが、
きっと、(アダムさんを)知らない人でも作品から伝わってくる、
聞こえてくるものがあると思います。
と陽子さんは嬉しそうにおっしゃっていました。
― テーマ「丁寧な暮らし」とは?
今どれだけ自分が恵まれているかに気付き、それを大事にして今やらなくてはいけない事に前向きに取り組む。
それを繰り返すことが「丁寧な暮らし」と思います、と陽子さん。
人に、ものづくりに、誠実に接し、取り組む。
そんなアダムさん、陽子さんの思いや姿勢が、器に、カフェのお料理に、すべてのおもてなしに表れている様に思います。
そして今後は七二会の魅力を朝から夜まで感じていただく為に宿泊もできる様にしたい、
パーティーや会合などにもに使っていただきたい、ご近所の方にお料理をデリバリーしたい、
といった事を考えているそう。こちらも楽しみですね。
取材の日、北アルプスが見える場所はありますか?とお聞きしたら、絶景スポットへ車でご案内いただき、他にも七二会の神社や
廃校となった木造の分校校舎、七二会地区をぐるっと一周まわっていただき、地域の魅力をお話しくださいました。
そして暑くなって脱いで無造作に置いたジャケットが、ふと気付くとハンガーにかけられている。
インタビュー中、話が雑談になった絶妙のタイミングでアダムさんレシピのハーブティーが出される。
アダムさん、陽子さんのお二人のおもてなしにすっかりリラックス。
さらにたくさんの動物たちに癒され、時間を忘れました。
こんな素敵な場所、人から生み出される「気持ちが落ち着く」器たち。
ぜひ使ってみてくださいね。